『ゲームの王国』読んだ

 思ったことを徒然と。ネタバレはない。

 

 注目されてる人物が人間が完全にやめてて周りも全員狂ってる白夜行。そんな印象をはじめは受けた。
 やっぱり自分は個人的に最近の作品のほうが、洗練されてる感じがするのと新鮮さを強く感じるので好き。過去の名作から学んでるからこそ、それらを読んでいるときに感じるあの使い回された先の読める雰囲気とチープさを感じない。まぁ名作は楽しむというより「知る」って感じだもんね。
 しかし所々に「乱れ」を感じる。雑さというか、一貫性のなさ(これは前作の『ユートロニカのこちら側』でも感じた。わざとなのかという判別は難しい)がある。雑も味のある雑さじゃなくて、「ここ手抜きか?」「時間なくて適当にやった?」みたいな雰囲気がある。うまくいえないけどプロの作家の書き方と言うより、Twitterをみてる感じがする場面が多々ある。良い(ここで言う良いとは作者の個性や独特な比喩などの表現を駄目にせずに、それでいて表現をもっと昇華させ、雑さを削ることのできる経験の深いさま)編集者に巡り会ってほしい。
 ひとつ気になったのが、登場人物が血の通った「人間」であるというより話をすすめるための「記号」に成り下がっていると感じてしまったこと。プロットのための用意された登場人物という感じが強く伝わってくる。もちろんフィクションなんて全てそうだけど、うまくごまかして違和感なく自然な感じにできている作品は多いと思う。本作は残念ながらそうではなかった。原因はまぁいろいろあるだろうけど、一つは登場人物の外見的・身体的特徴を全く書いていないこと。
多数の視点でものごとが進んでいくという作品の仕組みも関係あると思う。あと、これは微妙なところだけど、考え方も生き方も何もかもぶっ飛んだ設定のキャラクターが多いことも原因かもしれない(俺はそれがこの作者の魅力の一つだと思うけど)。

 でも出来事主体で登場人物はそのための道具という感覚は強い。群像劇なのに群像劇じゃない。そもそもまず群像劇であるかどうかについても疑うべきではあるだろうけど。そういえば途中で日本人NPO視点が出てくるけど、あれの存在意義はなんだったのだろうか。ソリヤの人物とか性格について、この視点を通じて読者が深く知ることができるみたいなことはないし、むしろソリヤの過去の記述に嘘がないことを読者に証明するためみたいな意味合いの方が強そう。まじで存在意義がわからん。なんか見落としてる?
 ストーリーに対する感想はない。なぜならストーリーがないから。SF的要素に対しては……なんとも言えない。でもすこし面白いと思った。
 取材量はすごいと思った。貴志祐介にも全く引けをとらないというか。

 

 結局のところ、この本をめくる手を止めさせなかったがなにかというと①取材に裏打ちされた現実感と残虐性 ②,その現実感に対をなす非現実性とコメディさ ➂,先が全く読めない展開 ④キャラクターの頭のおかしさと彼らの哲学 ⑤,群像劇的手法 かな

 

 手放しで称賛するような作品かと言われると正直微妙かな。個人的には圧倒的に『ユートロニカのこちら側』のほうが好き。でも安定のクオリティ。積極的に人にすすめはしないけど読むべき作品だと自信をもって断言できる。読もうかなと思っているなら読んで後悔するような作品では絶対にないのでぜひ読んでほしい。そのうえで自分で評価を下せばいいと思う。