okimochi

 仮面浪人に成功した。地方の国立医学部に受かった。本当は自宅から通える首都圏国立医学部が良かったが、正直そこまで勉強してないので文句は言えない。ただ、やっぱり自分が本当に医学部に行きたいのか、医者になりたいのかと言われると、自信を持ってそうとは言えない。受験の過程でも医学部を意識したことはなかった。俺が受けた医学部の面接は受験者が多いからか、受験生同士のグループディスカッションもどきを15分やるだけ。志望動機もすでに大学に通っていることも本当に全く関係なかった。まぁそういう大学を選んでわざわざ受験したわけだけど。もともと仮面浪人を選んだ理由も、突き詰めて考えるとコンプレックスとプライドによるところが大きいのではないかと思う。大学名晒すと、一浪して京大の工学部に落ちて慶應理工学部に行ったけど、仮面浪人で京大の工学部に行きたいとは全く思わなかった。同じようなこと学ぶんだから、わざわざ二浪扱いになってまで、同じ工学系にいく理由が思いつかなかった。だから医学部を受けた。消去法で医学部への進学を決めた。そんなもんだった。

 仮面浪人を最初に意識したのは、やっぱり落ちた直後だった。ただそのあと3月中色々考えて慶應で頑張ろうと、この頃はすごく意識も高くて、とりあえずプログラミングの勉強始めたり、英語力を落とさないように勉強したりしていた。そんなこんなで大学が始まったが、4月は最悪だった。入学式で今すぐ大学辞めたくなった(一番嫌だったのは入学式で隣りに座った女子同士の会話だった)し、その後も対して友達も出来ずだらだらと大学生活を送っていた。3月に芽生えていた意識の高さも一瞬で吹き飛んで、自堕落で退屈で無気力な大学生活を送っていた。精神状態は悪くなかった。一度自分の現状を受け入れて、無気力になればとても楽だったので、意識高くなったり、自分を悲観して自己嫌悪に陥ってド鬱太郎になることも少なかった。適当に授業出て、単位とって、バイトして、ゲームしてた。サークルにも入ってみたりした。とにかく一般的大学生の下の中くらいの大学生活を送っていた。でもやっぱり自分の中に焦りというか不安というか、自分はこのままでいいのかっていう思いが日に日に強くなっていって。夏休みで時間を持て余してると、そういうどことなく落ち着かない感情が常に横にいて、思考がネガティブな方向ばっかりに進んでいった。一番強かった思いは、このままじゃ駄目だという気持ち。果たして京大に行っていたらこの気持がなかったのかと考えると、まぁおそらくなかった。大学に入るまでの過程ばかり重視していた自分は大学に入って完全に迷子になってしまった。京大に入ったら努力しなくて良くて、慶應に入ってしまったからには、なにか有意義なことをしなければならないという強迫観念があった。高校の頃からあった。いい大学に入れば将来の保証を得ることができる。そう教わってきた。もちろんそれに対する反論は嫌というほど聞いたし、理系は甘くないということも散々言われたけど、それでもやっぱり、心地いい言説に身を委ねてそういう価値観で大学を見ていた。こういう考えの中では、仮面浪人して医学部と言う考えが頭の中で大きくなるのは必然だった。当時暇だった俺は受験勉強という暇つぶしが得られ、有意義なことをしているという錯覚も得られ、おまけに成功したら将来の保証がつくという上の考えにも見事に適合する。そんなこんなで、9月のセンター試験締切のギリギリ辺りから勉強を開始した。ただそこまで身が入らなかった。一度、目標や、やるべきことがうまれると、それまで本当に困っていたダラダラする時間に対する焦りや漠然とした不安が消えていったのである。矛盾してるように聞こえるし、何を言ってるかわかりかねるかもしれないが、目標を得たことによる満足感とそれに向かっている(実際にそこまで努力しているわけではない)という充足感とで未来のことに対して思考停止になっていたのだろう。

 センター試験は普通に出来なかった。センター試験は割とそれに特化した勉強量がものをいうところがやっぱりあると思う。去年94%出した自分はまぁいけるだろうと高をくくって勉強せずにいた。普通に成人式にも出たし、二次会でガッツリ飲んだりもした。センター翌週から始まる大学の期末に向けては全く勉強しなかったけど…… センター試験あとは割と絶望だった。首都圏の国公立医学部を受けるのは割と勇気がいる点数しか取れなかった。正直地方の医学部には行きたくなかったので、ダメもとで自宅から通える医学部突撃してみようかとも思ったが、ここでも思考停止と結論の先延ばしで、とりあえず地方の医学部受けてみた、受かってから行くかどうか考えることにした。

 で、今日受かったのを確認した。果たして俺はどうしたいのだろうか?自分がどうしたいのかわからない。この一年は色々と選択の一年だったけど、これが最後の大きな決断だろうな……